「今だから守りたい」大川中3年佐藤そのみさんの訴え。
2012-01-08


昨年暮れに、妻が被災地を巡るツアーに参加してきました。その時に、お会いした石巻の方がいろんな資料を送って下さいました。

その中の新聞記事に、中学校弁論大会石巻地区で審査員特別賞を受賞した佐藤そのみさんの文章がありました。

佐藤さんは現在、大川中の3年生。佐藤さんの妹さんは、大川小学校に通っていました。大川小学校は、全校児童108名のうち70名が亡くなり、未だに4名が行方不明となっています。佐藤さんの妹さんも、津波のために命を落とした一人でした。

佐藤さんの文章を是非とも多くの方に読んでもらいたいと思い、以下に紹介します。

 

「いまだから守りたい」

佐藤そのみさん(大川中3年)

「今のうちに家族や友達に優しくしないと、後で失った時に絶対後悔する」。この考えは、今年の1月ごろから、私の頭の中に唐突に浮かんできました。なんの意識もしていないのに、この言葉は毎晩のように脳内に連呼されていきました。

それでも私はいつものように、母や兄に反抗したり、妹にきつく当たったりと、その言葉を素直に受け入れることはありませんでした。

人の命はいずれ、この世からなくなってしまう。それぐらい分かっていました。でもそんな急に映画や小説みたいな別れ方なんてあるわけない。家族がいて、学校に通って、友達がいて、この何でもない平たんな日々が当たり前なんだと、私はそう信じていました。

しかし、3月11日、そんな映画や小説みたいな出来事が起きたのです。想像もしなかった大震災。震災から2日後に、大川小学校に向かう途中で事実を知らされた時も、寒さの中、安置所で妹を待っていた時も、5日後に妹が「ただいま」も言わずに帰った時も、これが現実で起きていることだとは認めたくありませんでした。

こんなの夢だ。夢じゃなきゃおかしい。変わり果てた大川の光景を目にして、そして妹を失ってこれを夢だと信じ続ける自分自身にしだいに耐えられなくなっていきました。

私が守りたかったもの。それは「バランス」でした。当たり前な日々とその中にいる自分。この2つのバランスです。

朝起きると妹は既に歯を磨いていて、私は時間ギリギリに家を出て、通学路の坂を自転車で下りるのが気持ちよくて、退屈な授業をみんなで脱線させて、部活動でみんなのプレーを眺めるのが楽しくて、放課後は自転車小屋でたわいもない会話をして、家に帰れば妹とギターで遊んで。

こんな当たり前の中のどれか一つが欠ければ、同じようなバランスは保たれていなかったと思います。私はこのバランスにすがるように、日々に流されていました。

今回の震災で、たくさんの人にとってのバランスが崩れました。いつもの自分を見失った人も多かったはずです。

「今のうちに家族や友達に優しくしないと、後で失った時に絶対後悔する」。今年になってから急にこの考えが浮かび始めた理由が、ようやく分かったような気がしました。

きっと自分じゃない他の誰かが、私の中に忠告していたのかもしれません。素直に受け入れれば良かった。もっと妹に優しくしていれば良かった。これほど後悔するのは初めてでした。

思えば、11日の朝、なぜかイライラしていた私は、妹に「おはよう」と言われても無視していました。

きっと私は、何もしなくても成立するバランスに甘えながら生きていたのだと思います。いつもの自分を保つことに精いっぱいでした。

しかし、震災で「いつもの自分」を失ったことによって「本当の自分」が分かってきたような気がします。何も頼るものがないと、本当に無気力でどうしようもない自分。行き詰まっても「どうにかなる」と高をくくってしまう自分。人と話したり人の話しを聞いたりすることが、本当は大好きな自分。

本当の自分を知って、いろいろな人と出会って、物事を見る視点や考え方が変わって、私はあることに気付きました。


続きを読む

[政治・経済]
[その他]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット